経理担当者が最後の砦、社長に囁かれる「節税」という甘い言葉の裏側
「節税」の落とし穴
経理担当者として仕事をしていると一度は受けたことがある営業の一つが「節税」商品かと思います。
この「節税」という甘い言葉の裏側には落とし穴があることもありますので、経理担当者はこの落とし穴についてしっかりと見極められるようにならなければなりません。
なぜなら、銀行・生命保険に在籍した時に「節税」をキーワードに営業をしていた経験もあるからよくわかるのですが、「節税」という殺し文句に弱い経営者が相当数いるからです。
税金をただ払うよりも自己もしくは自社に利するところにお金を回したいと考える経営者は多いと思いますし、経営者なら当たり前の思考なのかもしれません。ゆえに短期的な「節税」効果にばかり目がいってしまい、中長期的な視点が疎かになることがあります。
「節税」は本質ではない
私は自分が「節税」商品を販売していた経験があるにも関わらず、「節税」商品が好きではありません。
それは「節税」というのはその商品の本質とは別の副次的効果にすぎないのですが、経営者はその副次的効果にクローズアップし、商品の本来の目的や良さを説明しても興味が持ってもらえないことが多かったからです。
少し前までは「節税」の主力商品の一つだった生命保険を例にとってみると、商品の本質は「経営者に万が一のことがあった場合に受ける会社のリスクに対して、給付される保険金を充てることで会社や従業員を守ること」ですが、副次的効果である「保険料が経費計上できるのに保険会社に積み立てのように貯蓄できてしまうこと」がクローズアップされて販売されていました。
商品の本質である経営者の万が一のリスクについてはあまりよく考えず、目先の節税効果が大きいかどうかに焦点が集まるのです。
生命保険の本質を訴えたかった私の成績は結果として上がりませんでした。まあ、営業成績が上がらなかったのは他にも原因はあったとは思いますが、購入する側の欲しているものと違うことを話すのだから当然の結果と言えるかもしれません。
そんな経験もあったりして私は「節税」商品に対しては厳しい視点で見るようにしています。
私の経験はさておいても、経理担当者であれば商品の本質的な部分についても会社にとっても本当に必要かどうかの視点について、経営者に代わって冷静に分析して経営者に助言しなければなりません。
この点を怠ると必要以上にそういった商品に手を出してしまい、“安物買いの銭失い”になってしまいかねません。
「節税」なんて存在しない
改めて申し上げておきますと、実際には「節税」なるものは存在せず、実態は”税の繰り延べ”であり、”利益計上の先送り”であることを理解しておいてください。
「節税」のスキームを簡単に書いてみました。
会社の利益が出る⇒税金を払いたくない⇒「節税」商品を購入して経費計上する⇒会社からお金が出ていく⇒経費が増えて利益が減る⇒「節税」商品を解約または満期を向かえる⇒お金が戻ってくる⇒利益が上がる⇒税金を払う
この流れを見てもらうとわかると思いますが、結局税金からは逃れられないし、誰が得しているのかよくわかりません。
出口対策をきちんとすれば効果があると反論があるかもしれませんが、販売担当者から出てくる出口対策は一般論ばかりで、会社ごとの具体的な出口対策について提案を受けたことや、議論検討の機会を持った経験は私には一度もありません。結局、「節税」商品を販売した人だけが手数料収入を得て得していると感じてしまいます。
視点がずれると経営者は判断を誤る
それによく見ると、結果として経営者は社員が頑張って働いて出た会社の利益を減らすというおかしな行動に出ています。これは中小企業かつ同族企業でおこってしまう矛盾です。
仮に上場企業の経営者であれば利益をたくさん出した経営者が評価されるわけで、株主や株価のことを考えれば、会社利益を減らすというような施策は絶対にありえないことです。
もちろん利益の繰り延べも、数年後にやむを得ず大きな損失計上をしなければならないようなことが予め分かっている場合など、しっかりとした目的をもって行うのであれば会社や従業員にとって有益な場合もあります。
「節税」そのものが「目的」になってしまっては、経営者は判断を誤る可能性があることを経理担当者は理解しておかなければなりません。
経理担当者の役目
思っていたより利益が沢山出て税金を払いたくないのであれば、従業員の労をねぎらう意味で決算賞与を払うことで経費計上し還元することもできます。
もっと原点に返って、企業として社会貢献としてより多くの税金を納めるという考えに立てば「節税」なんて考えなくて良いかもしれません。
企業理念などで社会貢献をうたっているのに、せっせと「節税」で自己の利益に腐心するなんてなんとも矛盾していると思います。
昨今、合法的な「節税」商品も税務当局により規制が進んだことでめっきりと減ってしまいました。
それでも新たな金融商品などはどんどん開発されて高度化していますので、経営者に冷静な判断をしてもらうためにも経理担当者はそれらに関心を持ち、本当に会社に必要かどうかを自問自答し続ける必要があると思います。